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使用中とはいえトイレから離れることは辛かったが、事務所を出たのはそれほど悪い決断ではなかった。
腹痛が苦渋の決断を攻め立てるように暴れているが、頬が緩む。
結果的にトイレから遠ざかってしまったが、この行動はちいさな勝利を呼び込んだ。
作業場に行った場合と同じくクーラーから開放され、なにより事務所を出たので当然タカコちゃんは見えない。
つまりいつでもアイスを捨てられる。
散々苦しめられたがお前との付き合いもこれで終わりだ。
あばよ―――。
カラカラカラ
緊張感の無い音がして今閉じたばかりの事務所の戸がスライドする。
出てきたのはタカコちゃんだ。
にっこりと微笑んでいる。
俺は振り上げていたアイスをゆっくりと戻し口にくわえた。
「ふがふが」
「喋れてないですよ」
アイスを口から出す。
落ち着いて見るとタカコちゃんは郵便物を抱えていた。
「それ今から出しに行くの?」
今日は日曜で、こんな田舎で土日祝には郵便物の回収をやっていないはずだ。
郵便局に休日対応の窓口があるかもあやしい。
つまり急いで今日出さなくてもいいはずだ。
それなのに、タカコちゃんは質問ににっこり頷く。
「事務所空けてていいの?」
「今日はもう来客予定ないですし電話は作業場の方に転送してますから」
「そう……そうだ。
それ俺が出しとこうか?」
「いえそういうわけには」
タカコちゃんは困った顔で笑う。
俺はそれ以上に困ったことになった。
これではアイスが捨てられない。
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