激動

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准汰は気を紛らわそうと窓辺に寄った。 木々の間を野鳥が飛び交う。 隣家からはオヤジの豪快なくしゃみが聞こえてきた。 (こんなに平和なのに、どうして憂鬱なんだろう……?) 准汰は思った。世界は何も変わらないのに、まるで自分だけが別世界にやって来たような感覚。 沙夜とお腹の子の為に一生懸命頑張っていた自分は、一体どこに行ってしまったのだろう……。 (俺がだらけているのはただの甘え?) 准汰は賢斗が死んだからとか、翔四季が寝たきりになったからとかそういうのを言い訳にしてはいけないと思うのだが、身体が言うことを聞いてくれそうにない――。 部屋のドアをノックする音が、別世界に居る准汰を現実に引き戻そうとする。 「早かったね、涼子ちゃん。開いてるから勝手に入って」 准汰は少しでも涼子を明るく迎え入れようと、声のトーンを上げて言った。 ドアを開け、准汰の部屋に入ってきたのは――沙夜だった。 「涼子って誰?」 やはり現実は残酷であった。 准汰はこれで全てが終わるのだと痛感した。
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