最低な男

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「何よ、浮気しといて、仕事もずる休みして偉そうに。しかも友達が死んだとか嘘ついて、ホントあんたって最低な男ね」 沙夜の顔は怒りに満ちていた。准汰は沙夜のこんな表情を初めて見た。 「もう無理。信用できない。これじゃ、やっていけない――私、中絶する。あんたの子供なんて産みたくない!!!」 “中絶” 准汰はまさか沙夜からその言葉を聞くことになるとは思いもしなかった。 まるでハンマーで頭を殴られたような衝撃。 中絶――つまりは子供を殺すということ。 それだけは何があっても選択してはいけない筈だったのに……。 「……分かった。沙夜がそうしたいならそうすればいい。結局、最後に選択権を握ってるのは女のお前なんだ。もう、好きにすればいい……」 「馬鹿准汰っ!!!」 沙夜は最後にそう叫んで出て行った。准汰はそんな沙夜を追い掛けることもしなかった。ただ呆然としているしか術がなかったのだ。 隣家からはテレビの雑音と共にオヤジの笑い声が聞こえてくる。 准汰は畳の上に転がった卵焼きを一つ拾うと口にする。 「甘い……」 准汰は自分の未熟さを嫌という程に味わった。
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