最低な男

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買い物に出掛けていた涼子が戻ってきたのは、そのすぐ後だった。 「ただいま」 「お帰り、涼子ちゃん」 「……なんか散らかってるね。私掃除するね」 涼子は畳の上に転がる食材を、一つ一つ丁寧に弁当箱に容れていった。 「涼子ちゃん」 准汰は、後ろから涼子を抱きしめた。 「俺、もう涼子ちゃんしか居ないよ。涼子ちゃんが好きだ。俺と一緒になろう」 「……ダメだよ准汰君。私、今の准汰君好きになれないもん。それに彼女に謝った方がいいよ。今ならまだ間に合うと思う。中絶なんて悲しいことさせちゃダメだよ」 涼子は准汰の腕を振りほどくと立ち上がり、詰め直した弁当箱を准汰に手渡した。 「私、帰るね。ちゃんと彼女に謝って仲直りしてね」 嵐の後のボロアパート。沙夜が去り、涼子が去り、准汰は我ながら情けない男だと思った。 “最低な男” まさにその通りだった。 准汰は畳の上に大の字に寝転がり天井を見上げる。 (俺がこのボロアパートにやって来たのは何の為だった? そう、それは沙夜とお腹の子を幸せにする為だった。なのに、現状はみんな傷付いて、不幸せになっているじゃないか……。全部は俺が未熟だったから……俺が悪い……) 准汰は天に向かって大きな溜息を吐いた。 隣家のオヤジは大きな声で笑っていた。
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