別離

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中絶手術は意外と早く終わった。 沙夜は看護婦二人に運ばれて、准汰の待つ部屋のベッドに寝かされる。 まだ麻酔が利いてるらしく、沙夜は意識が朦朧としている様子。 「二~三時間したら麻酔は切れます。そうしたらもう一度先生に診てもらって、それから帰れますからね」 看護婦は准汰に説明すると部屋を出て行った。 准汰と沙夜、二人きりになる。 もう三人ではなく、二人……。 「すまない……」 准汰は沙夜と亡くなった我が子に謝った。 自分の不甲斐なさに、改めて嫌気がさす。 沙夜は時々何かにうなされるかのようにして、タオルケットを払い除ける。 准汰はその度に沙夜にタオルケットを掛けてやった。 時間が経ち、徐々に麻酔が切れてくると沙夜は譫言で痛みを訴え始めた。その表情は物凄く苦しそうにしている。 准汰はそんな沙夜の手を優しく握ってやりたいのだが、沙夜がそれを望んでいない気がして躊躇う。 結局、准汰は沙夜の手を握ることができなかった。 苦悶の表情を浮かべる沙夜を見て准汰は自分が無力だと感じた。 男の自分には、沙夜の本当の苦しみや痛みを知ることができない。
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