別離

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それならば、刻もう。 今日の沙夜を。 そして忘れない。 小さな生命を。 准汰はそれが二度と消えてしまわないように、心に深く、深く刻み込んだ――。 沙夜は意識が戻ると再び医師の診察を受ける。 「暫く出血と痛みがみられると思いますから、数日間は安静にしていて下さい。入浴は一週間は湯舟に入らないで、シャワーだけなら三日目から大丈夫です。それとセックスは暫く控えて下さい」 医師は最後に、今後も経過を診るので暫くは通院して下さい、と言った。 診察室を出ると、准汰は受付で会計を済ます。保険が適用されない為、費用は十一万円程掛かった。 帰り間際、受付の女性は、お幸せに、と言って微笑んだ。 准汰と沙夜は無言で会釈をした。 病院を出ると准汰はタクシーを拾った。運転手に行き先を告げる。 車内では准汰も沙夜も終始無口だった。 二人は沙夜のアパートの近くでタクシーを降りる。 「幸せにするとか言って、全部嘘じゃない。私がどんな気持ちでいたかあんたに分かる?」 開口一番、沙夜の顔は悲しみと憎しみの入り交じった泣き顔であった。
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