別離

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「御免……」 准汰はそれしか言えなかった。 「もう……もうあんたの顔なんて二度と見たくない! あんたなんて死んじゃってよ。消えちゃってよ!!」 准汰は沙夜の背中を――後ろ姿をただ見送るだけだった。 そしてこれが准汰と沙夜の恋が、愛が終わった瞬間でもあった。 准汰は暫くの間その場に立ち尽くした。 失ったものの大きさをここで初めて知る。 時計の針はもう戻らない。 沙夜も子供の生命も帰ることはない。 “後悔” 准汰の中に残ったのはそれだけであった――。 准汰は沙夜と別れてから翔四季の病室に顔を出した。 翔四季は相変わらず眠ったままだった。 准汰は翔四季の傍らに椅子を置くと腰掛け、話し掛ける。 「なぁ、翔四季。俺、賢斗の葬式には行かなかったよ……。薄情な奴って思われちまったかな? 沙夜とも別れちまった。フラれたんだ……。フラれたと言えば、涼子ちゃんにもフラれちまった。笑えんだろ?」 准汰に相槌を打つのは、翔四季に取り付けられた呼吸機の音だけであった。 「結婚もパー。俺が不甲斐ないばかりに、子供中絶しちまった。殺しちまったんだ……。なぁ、俺って最低だろ?」
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