第一章 危険な翔四季

2/10
前へ
/174ページ
次へ
どこにでもある小さな一軒家。一階にあるひと部屋の窓は開け放たれ、大音量の洋楽が垂れ流されている。 「准汰、もっと音を小さくしなさい。近所に迷惑でしょ」 「うるせーなババァ。黙ってろ」 准汰は母、紀美子の注意を無視してステレオの音量を更に上げた。 激しいリズムに合わせて長いその髪を前後に振り、英語の歌詞を軽く口ずさむ。 「今日は一段とデカくね?」 准汰は微かに聞こえてきた声に振り返り、窓の方に目をやると、翔四季(としき)がこちらを覗き込んでいた。 准汰はステレオを止めると、すぐ出るから待ってて、とだけ言い、部屋の窓を乱暴に閉め、煙草とジッポライターとウォレットをジーンズのポケットに丁寧に入れた。 玄関でくたくたになったエンジニアブーツを履く。 「仕事行ってくっから」 准汰は居間の方に向かって少し乱暴気味に言うと、家を出た。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加