兄弟

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青空の下、ベランダに干された蒲団は太陽の恵みを受けふかふかに膨らんでいる。 この日の紀美子は上機嫌で、朝から鼻歌を歌い、家の掃除に余念がない。 紀美子がこれほど上機嫌な訳は、明晩はるばる、青森から山城宗一が妻と娘を連れてやって来るからだった。 紀美子が宗一と会うのは数年振りとなり、孫娘の優花(ゆうか)とは初めての対面となる。だから紀美子は、嬉しくて嬉しくて仕方なかったのだ。 ――准汰が兄の存在を知ったのは九歳の時。それまで一人っ子として、高杉家の長男として育てられてきた准汰だったのだが、突然紀美子に、この人がお前のお兄ちゃんだよ、と紹介されたのが宗一だった。准汰は何の説明もなしにそう言われたものだから、十以上も歳の離れた宗一を見て随分と困惑をした。 そして何よりも宗一の存在が怖いと思った。 紀美子や堺と仲睦まじい宗一が、他の男達のように自分から“母”を奪うのではないか。やはり自分は紀美子に捨てられるのではないかと。 堺は准汰とは一切話さないのに、初めて会う宗一とは和気藹々と話をした。准汰はそれがとても面白くなかった。 紀美子は不貞腐れる准汰を叩き、お兄ちゃんの前では行儀良くしなさい、と叱り付けた。
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