兄弟

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准汰が次に宗一と会ったのが十五歳の時。紀美子と青森に帰郷した時だった。 この時、宗一は成長した准汰に色々と話し掛けたが、反抗期の准汰は殆ど口を開かなかった。 帰り際、宗一がお小遣にと手渡した一万円札を准汰はくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てて帰った。 准汰が宗一と会ったのはこの二回きり。准汰は後になって伯父から聞いたのだが、宗一は紀美子が“トンボ”と出会う前に産んだ子供で、諸事情から青森の山城家に養子に出されたとのことだった。 しかし准汰は、例え半分血を分けた異父兄弟だとしても、一度も一つ屋根の下で暮らしたことのない宗一を兄とは思えなかった。 また宗一も准汰の態度からそれを察しているようであった。 事実上、二人は兄弟であって、他人であった―― 青森から出てきた宗一達が、准汰達の家にやって来たのが午後七時を過ぎた頃だった。家族三人の来訪に、ひび割れた家が一気に賑やかになる。 男女の独特の訛り声が真っ暗な自室に引きこもる准汰の耳に入る。 紀美子は初孫との対面に随分と喜んでいるようで、紀美子の話す赤ちゃん言葉が准汰を苛立たせた。
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