兄弟

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「熱でうなされてるのよ。気にしないでも熱が下がればちゃんと治るわ。さぁ、あっちに行きましょう」 「そっか、残念だな」 准汰の現状を何一つ知らない宗一は、紀美子に促され居間へと戻った。 准汰はドアの前から二人の気配が消えるのを確認すると、ヘッドホンを付けゲームの世界に逃避しようとするのだが、居間の賑やかな様子が気になり、暫くの間手にしたヘッドホンを握り締めたままでいた。 宗一達が滞在したのは四日間だった。その間准汰は空腹に耐え、闇の中で時折聞こえてくる幻聴に耐えながら宗一達の様子を窺った。 宗一達が青森に帰る日、准汰は落ち着かなかった。姪の優花の存在がどうしても気になって仕方がない。優花がどんな子供なのか見てみたい。 准汰は聞こえてくる会話の内容や物音から宗一達が家を出るのを確認すると、カーテンを少しだけ開け、その透き間から優花の姿を探した。 約一年振りの光に耐えられず、准汰の目が一瞬眩む。 准汰が再び目を開けると、そこに優花は居た。香織(かおり)に抱かれた幼い女の子は、紀美子に向かって小さな手を振っている。 久し振りに見る宗一の顔も、また香織の表情も穏やかで、准汰には二人の――三人の姿が神々しく見えた。
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