兄弟

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(俺がしっかりしていれば、俺に弱さがなければ、俺と沙夜もあんな風になれたのかもしれなかったのに……) その刹那、准汰と優花の視線が合う。優花は円らな瞳で准汰を見ると微笑んだ。 (何でだろう……?) 自然と准汰の目から涙が零れる。准汰は自分の経験からまだ幼い優花に大人の涙を見せては毒だと思い、咄嗟にカーテンを閉めた。 再び准汰は闇に飲まれる。 (優花はあんなに可愛いのに……でも、どこかで憎らしく思う自分が居る……。どうしてだろう? どうして俺の心はこんなに黒いのだろう……) 准汰はほとほと嫌悪した。こんな自分が許せない。 准汰は今し方見た優花の円らな瞳を思い出すと闇の中で嗚咽した。 この年の暮れ、世間に大きなニュースが流れる。 歌手の安室奈美恵とTRFのダンサーSAMが結婚と妊娠を発表したのだ。 このニュースに日本中の人々が沸き上がり、二人の結婚と妊娠を祝う。 准汰はたまたま点けたテレビでこのニュースを知ると、言い知れぬ思いに沈んだ。 祝福される生命と、祝福されない生命。 この世に産まれてくる生命と、消えていく生命。 奇しくも安室奈美恵と准汰は同い年であった。
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