悲しい殺意

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心の闇が深くなるにつれ、准汰に新たな症状が現れていた。 それは今にも部屋の天井が落ちてくるのではないかという不安。そして自分はその下敷きになってしまうのではないかという恐怖感。 何故そのように思ってしまうのかは分からないが、准汰は日に何度も天井を見上げては恐怖した。 また准汰は、誰かが自分の命を狙っているという被害妄想を持ち始めた。 特にそう思ったのが紀美子と堺に対してで、准汰はいつか二人が引きこもりを続ける体たらくな自分を殺しに来るのではないか――殺し屋を雇いこの部屋に送り込んで来るのではないかと本気で思い込み、バタフライナイフを肌身離さず持つようになった。 (部屋に来たら、遣られる前に殺してやる) 狂気に包まれた准汰の神経は過敏になっていた。 准汰は“死にたい”と思う半面、“誰かが殺しに来る”という被害妄想から自分の命を守ろうとしていた。 准汰自身この矛盾に気づきながらもどうすることもできなかった。 「ああー疲れた。全く、誰かさんはいつまで休んでるんだか」 仕事から帰ってきた堺は、いつものように准汰の部屋の前でそう言うと、鞄をドアにぶつけ中に居る准汰を挑発した。
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