悲しい殺意

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「アンタ、何やってんの?」 紀美子の声だった。准汰の部屋の方から堺の声と一緒に物音がしたので、様子を見に来たのだ。 「もう死んでるんじゃないか? この部屋、大分臭うし」 堺は言った。その言葉には悪意があった。 「馬鹿なこと言わないでよ」 「大体、一年以上も部屋の中で何やってんだよ。あれだけ啖呵を切って出て行った癖に、結局中絶させて帰ってきてこの有様じゃないか」 「それでいいのよ。どうせまだ子供なんて育てられる訳ないんだから。その内に出て来るでしょ」 紀美子はどこか楽観的だった。そもそも引きこもりや不登校みたいなものは気の弱い子供がなるもので、准汰のような不良息子がそうなるとは考えられなかったのだ。 また、元々親子が顔を合わす生活等してこなかったので、准汰の顔を見ないでも特に心配もしなかったのだ。 部屋の中の准汰には、最早二人の会話がまともには聞こえていなかった。 ただ、遂に二人が自分を殺しに来たのだと、そう思った。 「遣れ」 「遣れ」 「二人共、遣っちまえ」 准汰は聞こえてくる幻聴に小さく頷くと、バタフライナイフの刃を出した。 (アイツ等に遣られる前に、俺が殺してやる) 准汰はドアの前に立つと二人の様子を窺う。右手にはしっかりとバタフライナイフが握られている。 「遣れ」 「遣っちまえ」 「二人を遣れば、お前は外に出られるんだ」 (分かってる。これで全て終わらせてやる) 准汰は再び幻聴に頷くと、やおらドアノブに手を伸ばした。
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