悲しい殺意

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紀美子と堺はその光景に目を疑った。そこに以前とはまるで別人の准汰が現れたからだ。 部屋から出て来た准汰の目は血走っていた。 薄い髭を蓄え、肩下まで伸びた髪は脂ぎりぺったりとしている。 顔色は悪く、やせ細り、明らかに不健全。 汚れた衣類と体臭が相俟って、准汰から不快な臭いが漂う。 「……准汰」 紀美子は変わり果てた息子の姿にショックを隠せなかった。 堺は准汰の手にした凶器を見ると一目散に居間へと逃げ込む。 「待てよ、こら!」 准汰は堺を追い掛け居間へ入る。 「待ちなさい、准汰」 紀美子も後を追う。 居間では准汰と堺がテーブルを挟んで向かい合っていた。 「准汰、馬鹿な真似はお止め」 「黙れ、クソババア。それ以上近寄ったら先にお前を殺すぞ」 准汰の気迫に紀美子は後退った。居間に殺伐とした空気が流れる。 「おい、お前は何者だよ? 一体誰なんだよ?」 准汰はバタフライナイフを堺に向けて言った。 「な、何を言ってるんだ!?」 だが堺には准汰の言ってる言葉の意味が分からなかった。
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