受診

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確認を終え、再び玄関でスニーカーを履くとまた不安になる。ガスの元栓は、窓の戸締まりは大丈夫か。今、確認したばかりなのに気になって気になってなかなか外に出られない。 准汰はこんな自分の思考と行動がどこか変だと感じる。 「准汰、何してるの?」 一向に出て来ない准汰を案じて、紀美子が玄関のドアを開け様子を窺う。 准汰は何もなかったかのように振る舞うと、漸く外への一歩を踏み出した。 外は快晴であった。澄み渡る青空は、どこまでも、どこまでも果てしなく続いていた。 約一年半振りに太陽の光を浴び、准汰はまるで異国の地にやって来たような気分だった。 准汰は辺りを見回すと、近所の住民達が自分を見ていやしないか確認する。幸いにも幻聴は聞こえない。 准汰は紀美子に続いてタクシーに乗り込んだ。 タクシーの車内では紀美子と運転手がどうでもいい話をしていた。天気がどうとか、どこどこに新しい店ができたとか、当たり障りのない話題だった。准汰は横でそれを聞きながら、これから向かう場所に些か緊張していた。
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