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タクシーはY病院の入口前で停車した。二人はタクシーを降りると紀美子を先頭にして病院の中に入る。
朝の外来病棟は通院患者でいっぱいだった。
一階で受付を済ませると、二人は三階にある神経科外来まで階段を上がった。
神経科外来には既に何人かの通院患者が来ていた。准汰はその誰とも目が合わないように下を向くと空いている椅子に腰掛けた。
Y病院の二階が内科や小児科、歯科等で喧騒な雰囲気なのに対し、唯一三階にある神経科はひっそりとしていて別の空間のようであった。
「高杉さん、どうぞ」
看護婦は言った。純白の胸元には畠中(はたなか)と書かれた名札が付いている。
事前に診察の予約をしていた為、二人は大して待つこともなく診察室に入ることができた。
「おはようございます。どうぞ、掛けて下さい」
医師は控えめな笑顔で二人を迎えた。紀美子は、宜しくお願いします、と深々頭を下げる。
「私は広嶋孝文(ひろしま たかふみ)といいます。では早速ですが、始めましょうか」
准汰は俯いたまま広嶋とは目を合わさなかった。
「え~と高杉君。今日はどうしましたか?」
広嶋の問診が始まる。だが准汰は答えない。
「今、何か困ってることはありますか? 何でもいいですよ、良かったら私に話してみて下さい」
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