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ジャージの袖で涙を拭う准汰に、どうぞ、と畠中がティッシュを差し出す。准汰は受け取ったティッシュで涙を拭くとそのまま鼻をかんだ。
「今日はこの辺にしておきましょう。焦ることはないからね、高杉君」
広嶋は再びカルテにペンを走らせる。
「それでお母さん、今日は安定剤と眠れるお薬を出しておきますから、それで少し様子を見てみましょう」
「はい、お願いします」
「じゃあ高杉君、また三日後に私の所に来てもらえるかな。それでどんな調子だったか教えてくれるかな? お母さんも宜しいですか?」
はい、と再び紀美子が返事をするのと同時に准汰は小さく頷いた。
「じゃあ高杉君、また会おう」
他の診療科と違い一種独得の雰囲気に包まれた神経科外来。
診察室の外で順番を待つ通院患者達は、一癖も二癖もありそうだった。
引きこもり生活から脱する為。
自殺願望に打ち勝つ為。
この日から准汰の通院生活が始まったのだった――。
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