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広嶋への不信感と紀美子からのプレッシャーから、准汰は通院を止めてしまった。
急に何をやっても無駄に思えてどこか投げやりになっていたのだ。
(クソったれ)
何一つ頑張れないこんな自分が准汰は大嫌いだった。
「お前はエラー品。お前の存在する世界なんてないんだよ」
「だから生きる価値なし」
「速やかに廃棄しろ」
「つまりは“死ね”ということだよ」
薬を飲まなくなったことで、また准汰に幻聴が聞こえてくる。
(このままじゃ駄目だ!)
准汰は暗い闇の中で独り膝を抱え縮こまった。
そして目を閉じ記憶の彼方に過去の自分を見付ける――。
幼い頃から今に至る自分。
(沙夜のお腹に赤ちゃんができた時、俺は本当に嬉しかったんだ。それは俺自身が生まれ変わる程でとにかく優しい気持ちになれたんだ。
おふくろが俺を身篭った時。そして俺を産んだ時――つまり同じ気持ちだったから俺は今こうして存在しているんじゃないのか?
俺はまだ何もしちゃいない。親孝行も赤ちゃんや沙夜への償いも。
だから生きなきゃ……
はい上がらなきゃいけない)
准汰は立ち上がると部屋の明かりをつけた。
(明日、もう一度先生の所に行ってみよう)
准汰は一つの決意を胸に、再び広嶋の下を訪ねる決心をした。
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