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「うーん、環境を変えてみたいのは分かるけど……お母さんも余り賛成ではないみたいだし……」
広嶋は紀美子の方に視線を移す。
「頼む、おふくろ。金が掛かって悪いけど、どうしても行きたいんだ」
既に准汰の心は決まっていた。
「でも、そういう所は……」
紀美子は言いかけて止めた。反対をすることが本当に良いのか迷いが生じる。
また、一度決めたら梃子でも動かない准汰の頑固な性格も理解している。
「一歩を踏み出すにはこれしかないんだよ。だから頼むよ、おふくろ」
「……先生はどう思いますか?」
紀美子は広嶋に答えを委ねる。
「そうですね……彼がこんなに力強く訴えかけてくることなんて今までなかったことですからね。高杉君がそこまで言うならやってみてもいいんじゃないでしょうか。荒療治と言うには不適切かもしれませんが、一歩を踏み出す刺激にはなるかもしれません。ここから少し距離がありますが、T病院という所に私の先輩が居ます。とても信頼のできる方ですし、そこは比較的症状の軽い患者さんが入院する病棟がありますから、そこに暫く高杉君をお願いしてみましょうか」
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