閉ざされた病棟

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「そうですか……。それじゃあ、お願いします……」 紀美子は准汰を精神科に入院させることにはまだ納得のいかない様子だった。 しかし、過去を振り返ると准汰のやることに反対した結果どれも悪い方向に向かっている。今回は准汰の望むようにしてあげるべきなのかと、紀美子は思った。 「T病院には私も週に一回顔を出してますから高杉君の様子も見れますし、先輩の岸納(きしな)先生なら私も安心してお願いできます。今日にでも連絡しておきますので」 「先生、ありがとうございます」 准汰は広嶋に一礼する。 「でも高杉君、きっと君は分かってると思うけど一応言うよ。精神科の入院病棟という所は普通の病院に入院するのとは訳が違う。病棟の出入口は常に鍵が閉められていて自由に外出はできないし、病棟内では色々と制限もある。本当に大丈夫なんだね?」 「はい、大丈夫です」 広嶋は准汰の返事に改めて力強さを感じた。今の彼には“生きる力”があると。 紀美子は憂鬱な表情であった。ついに息子を精神科に入院させることになってしまったと。 「大丈夫ですよ、お母さん」 一部始終を見守っていた畠中が紀美子に優しく声を掛ける。 紀美子は誰にも気付かれないくらいの小さな溜息を吐いた。
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