閉ざされた病棟

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准汰が自ら精神科に入院したいと申し入れてから一週間――ついにその日はやって来た。 准汰と紀美子は広嶋からの紹介状を手にT病院へと来ていた。 広い待合室の壁に掛けられた時計の針は既に午後一時を過ぎた頃だった。T病院の午後の外来診察は三時からなので、待合室に他の患者の姿は見えない。 受付を済まして暫くすると、准汰と紀美子は診察室に案内された。 中で待ち受けていた医師は知的で繊細な印象の広嶋とは違い、短く刈り上げた頭髪に髭を蓄えた山男のような豪快な印象の男だった。 「こんにちは、よく来ましたね。今回、高杉君を担当させてもらいます岸納と言います。まぁ、掛けて下さい」 岸納は自己紹介の後に軽く世間話をして場を和ませると、ゆっくりと問診を始めた。 そして問診を終えるとカルテに向かって、うんうん、と何度も一人頷いた。 「一応ね、後で脳波検査もしてもらって、それと血液も採らせてもらうから」 准汰は広嶋の所でも脳波検査を経験しているので、特に戸惑いはなかった。 「あの、一応俺の病気って?」 「うん、そうだね。僕の所見はうつ病と精神分裂病と診るね。ただ分裂病に関してはまだはっきりと診断を付けられないところもあるから経過を見ようかね」 【※精神分裂病という名称が人々に誤解や差別、偏見を与えていた経緯から、2002年に統合失調症と改名されています。ただ、この小説の時代背景がまだそれ以前の話の為、小説内では精神分裂病という名称を使用しています。ご理解の程を宜しくお願い致します。】
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