閉ざされた病棟

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診察を終えた准汰と紀美子は、矢代(やしろ)という看護婦に案内されて精神科入院病棟の前までやって来た。 矢代は扉の前で鍵を取り出し素早く開けると、どうぞ、と二人を中に招き入れる。そして准汰達が中に入ると素早く鍵を掛ける。矢代のその一連の動作は実に慣れたものであった。 「二階になります」 矢代はそう言うと病棟に入ってすぐの階段を上がって行く。コツコツコツ、と三人の足音が病棟内に響く。 一段一段進むにつれ、緊張感が准汰を包み込み、まるで牢獄の中にでも入ってしまったような、そんな気分にさせていた。 矢代は二階の扉前まで来ると、再び鍵を取り出しまた同じ動作を繰り返す。中に入った准汰と紀美子の目に、精神科入院病棟の光景が漸く映り込んだ。 廊下には早速何人かの入院患者の姿が見えた。マグカップを手にパジャマ姿でうろうろと徘徊をする者。地べたに座り込み、何やら談笑をしている者達。 「病室はこちらです」 准汰の病室は二階に入ってすぐ目の前にあった。一番端の個室。病室は普通の病院と変わらないように見えたが、飛び降り自殺ができないように窓の外側にはしっかりと柵がしてあった。
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