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病室内にはベッドとテレビ、それとトイレが備え付けてあった。
「個室しか空いてないんですが宜しかったですか? もしも相部屋の方が良かったら言って下さいね。空きが出ればすぐに移れるようにしますから」
「いえ、いいんです。個室の方が安心ですから」
個室の方が入院費が嵩むが、紀美子にとっては安心だった。
「それじゃあ、とりあえず荷物を置いて先に病棟内をぐるっと案内しましょうか。あっ、貴重品は万が一なくなるといけないので持ってて下さいね」
准汰は鞄をベッドの上に置くと再び廊下に出た。矢代に案内されながら何人かの入院患者達とすれ違う。病状からなのか、服薬の影響からなのか、その誰もが虚ろな目をしている。
「新しい人ですか?」
患者の一人が声を掛けてきた。頭髪の薄い中年の男だった。
「ええ、そうですよ。高杉さんって言うの」
矢代は笑顔で答える。准汰は軽く会釈をすると通り過ぎて行った。
准汰と紀美子がナーススーテションに入ると、婦長の新庄(しんじょう)から看護婦達の紹介がされた。紀美子は持ってきた菓子折りを差し出すと、宜しくお願いします、と頭を下げた。
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