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「お兄さんお兄さん、ピーちゃんにはもう会った?」
今度は准汰の右隣に座る中年男性が話し掛けてきた。
「ピーちゃん!?」
「うん、ピーちゃん」
「ピーちゃんって誰ですか?」
「この病院を守ってくれてる妖精さんだよ」
准汰が聞き返すと男は真顔で言うのだった。
「お兄ちゃん、その人の話聞いちゃダメだよ。嘘ばっかだから」
そう声を掛けてきたのは准汰の左斜め前に座る短髪の男。
「ピーちゃんの羽はピンクでビューンって速く飛べて……」
妖精の話をしてきた中年男性は一人ぶつぶつと続けていた。
「まーかまーかさーるは黄ー色いお猿だー」
別のテーブルに座る男が突然大きな声で歌い始める。その男は准汰の父親と言ってもいいくらいの年頃だ。近くに居た矢代が宥めると、男は歌を止めすぐにおとなしくなった。
入院初日ということもあってか、准汰は食堂での異様な光景になかなか食事が喉を通らなかった。
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