閉ざされた病棟

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夕食を終えた准汰が二階に上がると、ナーススーテションの前で薬を飲む患者の列ができていた。 精神科の患者の中には処方された薬を飲まずに溜めておき、ある日それを一気に摂取して服薬自殺を図る者が居る。ナーススーテション前にできた列は、言わばそれを未然に防ぐ為の処置だった。 勿論、服薬を途中で止めると治療が進まなくなってしまうのでそれを防ぐ為でもある。 准汰も列に並ぶと順番を待った。 「高杉さん、ご飯は全部食べられました?」 順番のやってきた准汰に新庄が聞く。 「いえ、余り食べられませんでした」 「そう、それは残念ね。嫌いな物でもあったかしら?」 「そういうのじゃないんすけど、なんか場の雰囲気に慣れなくて」 准汰は苦笑いを浮かべた。 「そうね、まだ初日だからね。でも次第に慣れるわよ。えーと、高杉さんのお薬、お薬……あった!これね」 准汰は新庄から手渡された薬を全部口にすると、マグカップの水を一気に飲み干した。 「口を開けて見せて下さい」 それは患者が薬をきちんと飲み込んだかを確認する為だった。 准汰は口を大きく開けると目の前の新庄に見せる。 「はい、いいですよ。岸納先生から聞いてると思いますけど、眠気の強いお薬ですからね」 「はい」 「それと高杉さん、あなた虫歯が多いわね。これも治療した方がいいわよ。歯は大事だからね」
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