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精神科に入院して五日目。この日岸納の診察を終えた准汰は、病棟内の廊下で田沼(たぬま)という入院患者に声を掛けられた。
聞けば田沼もうつ病と分裂病を患っているらしく、中高とイジメを受けていたことや、その後引きこもっていたこと等、自身の身の上話を赤裸々に准汰に語った。
「やっぱり高杉さんもイジメられたりしてたんですか?」
「いえ、俺はそういうのじゃないんすけどね……でも引きこもってましたよ」
「そうですか。やっぱり毎日死にたいって思ってました?」
「そうですね……そんな時期もありました」
「……なんか暗い話になっちゃいましたね」
田沼は苦笑すると、他に話題がないのか、それから黙り込んでしまった。
「お二人さん仲がいいですね。何話してたんですか?」
准汰と田沼に声を掛けてきたのは栗色の髪をしたあの若い看護婦だった。
准汰は薬で朦朧としている時には気付かなかったが、改めてよく見る彼女は、眼鏡の似合う美しい女だった。
「ちょっとした身の上話ですよ」
田沼はもじもじと照れ臭そうに言った。准汰は田沼のその様子から、彼が彼女に好意を持っていることを容易に悟る。
「高杉さん、やっと覚醒ですね。どうですか、具合は?」
若い看護婦は笑顔で言う。
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