白衣のアイドル

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准汰は田沼が八十年代のアイドルファンのように思えてならなかった。ブラウン管の向こうのアイドル達を、恋愛やセックスとは無縁の純粋無垢な存在だと信じて疑わない。 田沼の羽香南を思う気持ちもそれに近い。 准汰は田沼の恋愛経験の乏しさを知るのだった。 羽香南は病棟内の患者達から絶大な人気を誇っていた。そもそもこの鬱屈とした病棟内で、彼女と会話を交わすことが彼等の唯一の楽しみなのかもしれない。 中には田沼のように恋愛感情を抱く者も居る。 しかし、それは成就することのない一方的な片想いだった。 准汰は歳が近いこともあり、他の看護婦達や医師と話すよりも羽香南と話す時が一番リラックスできた。 勿論、准汰にとっても羽香南の美しさは魅力的だった。 気付けば他の患者達と同様に、彼女との他愛もない会話に楽しみを感じていた。 思えば准汰は、沙夜と別れてから“恋心”というモノをどこかに置き忘れていた。 誰かを好きになる気持ち 恋い焦がれる想い しかし、准汰は冷静だった。恋愛という熱病にうなされる前に、自らブレーキーを掛けたのだった。
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