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開店早々、常連客が何人か入店してきた。すぐにテーブル席につきバカラを始める客、店奥にあるバーカウンターにやって来る客。
顔なじみの彼等は従業員達に気さくに声を掛けてくる。
「お兄ちゃん達さ、ちゃんと休み貰ってんの? 最近、疲れた顔してんね」
准汰達にそう声を掛けてきたのはバーカウンターにやって来た常連客の一人だった。
「いえ、今は忙しいんで、なかなか休めないんすよ」
賢斗が営業用の笑顔で答え、准汰が注文された生ビールを差し出した。
「お兄ちゃん達だったら、ここよりもホストクラブの方が稼げると思うんだけど――良かったら店紹介するけど、どう?」
「いやー、俺等オバサンの相手とか無理だし、ホストって客選べないんでしょ?」
翔四季は手渡された名刺を見ながら、遠慮のない口調で答えた。
「まぁ、客商売だしね。ホストは選ばれてナンボの世界だから。でも暇と金を持て余したホステスや風俗嬢なんかも多いし、お兄ちゃん達なら美味しい思いできると思うよ」
「山本さん、うちの優秀なバーテン達を引き抜かないで下さいよ。これじゃあ、うちの店が潰れちゃいますから」
横で聞いていたオーナーが、頃合いを見て間に割って入った。山本と呼ばれた常連客はオーナーに対し、これは失礼しました、と茶目っ気たっぷりに言うと、ビールを一口だけ呑んで席を立っていく。
准汰達四人は誰一人としてホストに転職しようとは思わなかった。
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