カジノバーの悪魔

7/22
前へ
/174ページ
次へ
開店早々、常連客が何人か入店してきた。すぐにテーブル席につきバカラを始める客、店奥にあるバーカウンターにやって来る客。 顔なじみの彼等は従業員達に気さくに声を掛けてくる。 「お兄ちゃん達さ、ちゃんと休み貰ってんの? 最近、疲れた顔してんね」 准汰達にそう声を掛けてきたのはバーカウンターにやって来た常連客の一人だった。 「いえ、今は忙しいんで、なかなか休めないんすよ」 賢斗が営業用の笑顔で答え、准汰が注文された生ビールを差し出した。 「お兄ちゃん達だったら、ここよりもホストクラブの方が稼げると思うんだけど――良かったら店紹介するけど、どう?」 「いやー、俺等オバサンの相手とか無理だし、ホストって客選べないんでしょ?」 翔四季は手渡された名刺を見ながら、遠慮のない口調で答えた。 「まぁ、客商売だしね。ホストは選ばれてナンボの世界だから。でも暇と金を持て余したホステスや風俗嬢なんかも多いし、お兄ちゃん達なら美味しい思いできると思うよ」 「山本さん、うちの優秀なバーテン達を引き抜かないで下さいよ。これじゃあ、うちの店が潰れちゃいますから」 横で聞いていたオーナーが、頃合いを見て間に割って入った。山本と呼ばれた常連客はオーナーに対し、これは失礼しました、と茶目っ気たっぷりに言うと、ビールを一口だけ呑んで席を立っていく。 准汰達四人は誰一人としてホストに転職しようとは思わなかった。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加