カジノバーの悪魔

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准汰は客の残した手付かずのサンドイッチを頬張りながら、賢斗の手元にある電卓を覗き込んだ。 「四十万か。沙夜に指輪でも買ってやろうかな」 「おっ、いいね。んじゃ、俺は真澄(ますみ)にエンゲージリングでもやろうかな」 「フン、お前は思いっきりフラれろ」 賢斗の軽い婚約発言に、翔四季は容赦のない洒落を言った。後ろで佳紀がゲラゲラと笑っている。 「馬鹿ピアスッ! 真澄は俺に夢中なんだよ。佳紀も笑ってんじゃねぇよ」 「だって賢斗。それにエンゲージリングって意味分かってるの?」 佳紀は洗い物を続けながらまだ笑い続けていた。賢斗の分かりやすい反応に准汰と翔四季も笑う。 准汰はサンドイッチを平らげると電卓の数字をリセットして、それから煙草に火をつけた。軽食とはいえ、食後の一服は格別だった。きっと肺癌になったとしても、寝起きの一服と、食後の一服だけは止められないだろう、と思った。 准汰はやおら腰を上げると、キッチンの上の換気扇に向かって煙草の煙を吐き出した。白い煙は迷うことなく、真っすぐと目的地に向かって走りだした。
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