カジノバーの悪魔

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「俺も殴りてぇー」 そう言った翔四季の目は、悪意に満ちている、と准汰は思った。 猪狩に憧れを抱く翔四季。 准汰はふと翔四季の父親の話を思い出した。中学の時に聞いた話。離婚をして家を出ていった翔四季の父親はヤクザだった、と。 翔四季のずば抜けた喧嘩の才能。 常に放出し続ける威圧感。 脅えをしらないハート。 やはり血は争えないのだろうか? 准汰は暴力に魅入られた親友、翔四季の将来が不安に思えてならなかった。 「翔四季にあんな仕事は似合わねぇよ」 准汰は言った。 「そうか? この馬鹿ピアスには天職だと思うけどな」 そう言ったのは賢斗だった。 「まぁ、ああいうクソみてーな奴を殴って金が貰えるなら一石二鳥だしな」 翔四季は満更でもない顔だった。 「なぁ、翔四季。二十歳迎えて大人になったらよ、金を貯めて服屋でもやろうぜ」 「……ジュン、急にどうしたんだよ?」 准汰の誘いに翔四季は怪訝な面持ちだった。 「いいじゃん服屋。ジュンも翔四季もそういうの好きなんだし、二人がやったらお洒落な店ができそうじゃん」 そんな二人を察した佳紀は、翔四季に准汰の誘いを薦めた。 「無理だって。こんな馬鹿ピアスが店に居たら、客がびびって寄り付かねぇよ」 だが賢斗はその提案に否定的であった。 結局、客のオーダーが入ったことで、この話は無かったかのように流れてしまった。 だが准汰は本気だった。翔四季が暴力という名の大波に飲み込まれてしまう前に救い出さなければ、と。
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