カジノバーの悪魔

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暫くして、店内に猪狩が戻ってきた。相変わらず一般客と見分けがつかない装いで、今し方泥酔した客を殴り、蹴り、罵倒した姿など想像もできなかった。 憧れの眼差しを露にした翔四季は再び定位置に腰掛けた猪狩にタイミング良くオレンジジュースを差し出した。 猪狩は、ありがとう、と一言だけ告げると、漸くオレンジジュースを味わうことができたのだった。 「お兄さん、お兄さん。マティーニとブラッディ・マリーを頂戴」 カクテルの王様と、准汰の大嫌いなトマトジュースを用いたカクテルをオーダーしたのは、ホステスと思われる二十代半ばの女性客だった。 女の顔は仕事の為か、かなりの厚化粧で、しつこい顔をしていた。 だが夜見る顔としては綺麗な女だと准汰は思った。 女の身に纏った洋服は、豊満な胸や尻を態と強調させたような窮屈な物で、准汰はその卑猥な胸の谷間にジンとベルモット、ウォッカとトマトジュース、これら全てを悪戯に注ぎ込み、この女の胸をステアしてやりたいと思った。 途端、浮気者、と言う沙夜の膨れっ面が目に浮かぶ。 准汰は今夜の言い訳を模索した。
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