カジノバーの悪魔

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熱気と共に、准汰の鼻から赤い滴が流れ出てくる。掃除して間もないというのに床は赤く染まり、准汰のエンジニアブーツにも滴が跳ねていた。 准汰は顔をしかめながら、これ以上床や服を汚さないように両手で鼻を押さえた。 「高杉(たかすぎ)、お前誰に向かって口聞いてんだよ。いいからお前も安立(あだち)も黙って飲め」 そう言った猪狩の拳には准汰の血液が付着していた。 「佳紀、絶対に飲むなよ」 その准汰の一言が猪狩の機嫌を損ねた。准汰は腹を蹴られ、蹲ったところで更に蹴りを入れられ、堪らず呻き声を漏らした。 そして、その呻き声が火に油を注ぎ、猪狩の容赦のない蹴りの雨が准汰に降り懸かった。 猪狩の蹴りは、まるで稲妻を帯びた夏の嵐のようだった。 准汰は赤く染まった床に重なると服の汚れなど一切気にせず、ただあの酔っ払いのことを一心に思い出し、降り続く痛みに延々と堪え続けた。
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