カジノバーの悪魔

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「俺、飲みますから。だから、もう止めて下さい」 准汰に降り懸かる雨を止めたのは佳紀だった。佳紀は顔を強張らせながらグラスを手にしていた。 そして、一回深呼吸をすると躊躇うことなくグラスに口を付け、覚せい剤の入ったスポーツドリンクを一気に飲み干した。 准汰は佳紀のその行動に、これ以上の抵抗は無駄だと悟り観念をした。 「よし、次は高杉の番だ。お前には俺が飲ませてやるよ」 猪狩は准汰の頭を鷲掴みにするとやおら口元にグラスを運び、丁寧に覚せい剤入りスポーツドリンクを飲ませた。 准汰の喉を通るスポーツドリンクの味は、時折血液が混じって鉄の味がしたが、それ以外は普段飲むものと何等変わらないものだった。 「どうだ、最高の気分だろ。欲しい時はいつでも言え。今日はサービスだが、次からはワンパケ一万で売ってやる。それと炙るにしろ、針にしろ、詳しいやり方は最上と佐々木にでも聞いておけ」 それが覚せい剤の所為なのかは分からないが、准汰も佳紀も放心していた。 そして、ただ段々と脈が早くなるのを感じながら、猪狩の広い背中を見送った。 静かになった店内。猪狩が居なくなった後も、准汰と佳紀は会話をすることはなく、ただその余韻に浸り続けていた。
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