カジノバーの悪魔

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「大丈夫?」 静まり返った店内で先に開口したのは佳紀だった。声を掛けてきた佳紀の瞳孔は大袈裟なくらい開いている。 准汰は、あぁ、と素っ気ない返事をしてから立ち上がると、殴られた自分の顔を確認する為、身体の痛みを堪えてトイレに向かった。 鏡に映った准汰の顔は血で派手に汚れていたが、造形は崩れてなく何の問題もなかった。 准汰は蛇口を捻り、水が出るのを確認すると、優しく顔の汚れを洗い流す。 トイレから出た准汰は、両耳のピアスを引っ掛けないように汚れたTシャツを脱ぎ、そのままゴミ箱に投げ捨てた。 そして、再び店の制服の白いワイシャツに袖を通すと、適当にボタンを留めた。 下に穿いていたリーバイスのジーンズにも所々血が付着し、インディゴブルーに赤黒い染みが出来ていたが、数万円もしたヴィンテージ物だったので簡単に脱ぎ捨てることはできなかった。 着替えを済ませた准汰は、煙草を取り出し口に銜えたものの、ジッポーライターのオイルが切れていた所為で、いつまで経っても煙を吸い込むことができないでいた。 それを見兼ねた佳紀は、准汰の苛々が募る前に、安物のライターで准汰の銜え煙草に火をつけた。 准汰は漸く煙を吸い込むと、サンキュー、と佳紀に言った。 やっと二人に笑顔が戻った瞬間だった。
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