カジノバーの悪魔

22/22
前へ
/174ページ
次へ
外に出ると強烈な光が准汰を歓迎していた。それは余りにも眩しくて、普通に目を開けていることができないくらいだった。 暫くして目が慣れてくると、准汰の視界に朝の歓楽街が映り込んできた。殆どの店がシャッターを下ろしていて、その前を自転車に乗ったサラリーマンや学生が疎らに通り過ぎて行く。 覚束ない足取りで道を一つ曲がると、遠目に犬の散歩をした老人とOLと思われる女性が数名先を歩いているのが見えた。 別にこれといって珍しい光景でもないのに、准汰は何処を見たらいいのか分からず、目玉をキョロキョロと動かしながら視線を合わすべく対象を探していた。 それとやけに口の中が粘ついてきて、不快な渇きを紛らわす為に、何度も舌なめずりを繰り返していた。 きっと今警察と出会ったら、挙動不審な准汰は家に帰ることができなくなるだろう。 沙夜を泣かせることにもなるだろう。 「沙夜……」 准汰は急に沙夜が恋しくて堪らなくなった。 沙夜に会いたい。 沙夜の声が聞きたい。 そして沙夜の小さな胸の中で静かに安らいでいたい、と准汰は思った。 准汰は数十メートル先に公衆電話を見つけると、沙夜の笑顔を思い浮かべながら一目散に目指した。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加