生命

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暫くして、後ろからコンコンと窓をつつく音がしたので准汰は振り返った。窓の向こうには笑顔の沙夜が立っていた。 「凄く美味しいよ」 窓越しに沙夜がそう言ったのがはっきりと分かった。 准汰は照れ隠しに煙草の煙を窓に向かって軽く吐いた。しかし、横から吹いた風にさらわれ、煙は隣のベランダを通り宙に消えていった。 再び窓に視線を戻すと、いつの間にか白いレースのカーテンがされていて沙夜の姿は見えなかった。 准汰はもう一度煙を吸い込み窓に強く吹き掛けた後で、可笑しくなって笑った。 部屋に戻るとソースの香りが漂っていた。准汰は沙夜の横に腰を落とすと、あーん、と言って口を開いた。口に運ばれた焼そばは大した味ではなかったが、一生忘れられない味のような気がした。 皿を洗い後片付けを済ませると、准汰は漸く溜まった風呂に浸かることにした。 准汰は今朝できたばかりの身体の痣を考えるとシャワーだけで済ませたいところだったが、湯舟に入らず出てしまったら、沙夜の好意を無にしてしまう気がしたので、身体の痛みを堪えて湯舟に浸かった。
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