プロローグ

5/7
前へ
/174ページ
次へ
軽目の朝食を終えた准汰は、ショルダーバッグを引っ掛け、そそくさと玄関に向かった。 「あっ! ジュンちゃん、ちょっと待って」 そう言って羽香南はゴミ袋を一つ持って追いかけて来た。 「これ出しといて」 准汰はゴミ袋を受け取ると、行ってきます、と言って出ようとしたのだが、羽香南が言葉を続けたのでそのまま立ち止まっていた。 「あのね、本当のこと言うと私も子供が嫌いなの。出産とか凄く痛いって言うし。子育てとか自信ないし。だからね、子供なんか要らないから、欲しがらないから、ただジュンちゃんと一緒に居られたら、それだけで幸せだから」 今朝の羽香南の顔はいつもより穏やかで、優しくて、美しかった。 「……嘘つけ。無理して俺に合わせなくていいんだよ。そんなんじゃ疲れちまうだろ? 今更、俺に気を遣うなよ」 「ううん、本当だよ。それに気を遣ってるのはジュンちゃんの方でしょ。私、分かってるから。ジュンちゃんの気持ち、ちゃんと届いてるから」 准汰を見送る羽香南の顔は優しく微笑んでいた。一切の曇りもなく微笑んでいた。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加