生命

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翌日、沙夜はちゃんとした検査を受ける為に准汰を連れて病院に向かった。 産婦人科での結果は――やはり沙夜のお腹の中には生命が宿っていた。それは間違いなく准汰の子供だった。 准汰は検査の結果を受けて、改めて父親になる決意を固める。 病院を出た二人は、今後の話をする為、寄り道もせず真っすぐに沙夜のアパートに向かった。 准汰は部屋に入るなり冷房のスイッチに手を伸ばしかけたが、沙夜とお腹の子が冷えるといけない、と思い止まった。 准汰はパステルピンクのカーテンを開けると窓を開け風を入れた。 「あのさ……こんな時に言うのもあれなんだけどさ……カジノの仕事辞めちまったんだ」 まだ正式にカジノバーの仕事を辞めた訳ではないが、遅かれ早かれそうなるならと、准汰は思い切ってそう告白をした。 「え!? いつ? 何で? 私、何も聞いてないよ」 たちまち沙夜の顔が曇った。 気まずい空気が流れる。 「全然休みが貰えないからよ、なんか頭にきちまって辞めちまったんだ……」 准汰は店が覚せい剤に汚染されていることを沙夜に言うことができなかった。 そもそも沙夜は、カジノバーで行われていることが違法なことだとは知らない。
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