生命

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「何よ、それ。そんなんでこれからどうするの? 赤ちゃん居るんだよ」 「……分かってるよ。仕事はすぐに見つける。沙夜とお腹の子には苦労させねぇから。だから、俺を信じろよ」 准汰はばつが悪かった。今の自分の言葉には何の説得力もない。沙夜とお腹の子を幸せにする道理などありはしないのだと思った。 「信じろって……。勝手に始めて勝手に辞めて……まだ三ヶ月でしょ? 結婚して赤ちゃんが産まれてきたらそんな簡単に仕事変えてられないんだよ。ジュン君、本当に分かってるの?」 准汰は唇を噛み締め何も言い返すことができなかった。これ以上何かを言えば、それは醜い言い訳になるだけで、余計に話が縺れるだけだと思った。 暫く沈黙が続いた。沙夜は険しい顔をしている。 准汰はこの果てしない沈黙を打開する為にあれこれと頭の中で画策をしてみたが、沙夜を納得させるような言葉を見付けることはできなかった。 准汰は煙草を手に取ると逃げるようにベランダへと向かった。 (今はやっぱり、カジノの仕事を続けるべきなんだろうか……) 准汰に迷いが生じていた。 (無職になるよりは、危険を冒してでもカジノで働き続けた方がいいのかもしれない……。でも、もし警察が踏み込んで来たら、薬漬けにされちまったら……沙夜とお腹の子を路頭に迷わすことになる。泣かせることになっちまう。ダメだ。これじゃダメなんだ。もっと他に何か道がある筈。考えるんだ、一生懸命考えるんだ……)
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