生命

12/12
前へ
/174ページ
次へ
准汰は煙草を吸い終えると重苦しい部屋へと戻った。 沙夜は険しい面持ちのままだ。 「紙とボールペンない?」 「……あるけど、何書くの?」 沙夜は怪訝な面持ちで准汰にメモ用紙とボールペンを手渡した。准汰はボールペンを手にすると、何やらすらすらとメモ用紙に書き込んでいく。 そして書き終えるとそれを沙夜に手渡した。 「……結婚したら私、高杉沙夜になるんだね」 「そうだよ」 手渡されたメモ用紙を見て呟くように言った沙夜に対し、准汰は優しく相槌を打った。 「ねぇ、一番下の名前って何? 高杉……何て読むの?」 「じげんだよ。ルパン三世に出てきたろ? 高杉次元、俺達の子供の名前にどうかな?」 「やだ、そんな名前」 准汰のおどけに沙夜はクスクスッと笑った。 「だよな。産まれてすぐ髭が生えてきたら困るもんな」 准汰も笑った。それは、ホッと胸を撫で下ろした瞬間でもあった。 沙夜が見つめるメモ用紙には 高杉准汰 高杉沙夜 高杉次元 と三人の名前が書かれてある。 「俺が望むのはそこに書いてあることだけだよ。俺は本気でそうなりたいって思ってんだ」 笑顔から一転、准汰は真剣な眼差しで沙夜に言った。 そして沙夜はそんな准汰の言葉に頷いてみせた。 「まぁ赤ちゃんの名前はもっと真剣に考えなきゃいけないけどな」 そう言って准汰は再び笑いかけ、沙夜もそれに微笑み返した。 准汰は一瞬訪れたこの危機的状況を、沙夜のお腹の子によって救われたような気がした。 (ありがとう) 准汰は心の中で、我が子にそう感謝をしたのだった。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加