第二章 ひび割れた家族

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准汰の両親は、准汰が三歳の時に大きな夫婦喧嘩が原因で離婚をしている。 だから准汰には父親の記憶が殆どない。父の名前も年齢も知らなければ、顔を思い出すこともできない。 准汰が唯一父のことで思い出せるのは、父が赤い車に乗っていたことと、“トンボ”というあだ名で呼ばれていたこと。 そして紀美子に酷い暴力をしたこと。 高杉家が家族三人で過ごした最後の夜は、准汰の記憶の中に大きなトラウマとして深く刻み込まれていた。 ――それは夕食の時間。“トンボ”と紀美子が軽い口論を始め、それが段々とエスカレートしていき怒鳴り合いになった。 そして虫の居所が悪くなった“トンボ”は、紀美子の顔を拳で殴り付け怒鳴った。 しかし負けん気の強い紀美子は、アンタは最低の男だ、と言っては引き下がらず、“トンボ”はその言葉に逆上し、更に殴る蹴るの暴力を続けた。 続け様の暴力で紀美子の顔は見る見る腫れ上がり、唇の端が切れうっすらと血が滲んだ。 “トンボ”が居間に立て掛けてあった金属バットを手にした時、流石の紀美子も泣いて許しを請うたが、“トンボ”の暴力と暴言が止まることはなかった。
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