第二章 ひび割れた家族

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“トンボ”が手にした金属バットで紀美子の腕を殴ると、とても恐ろしい音と叫び声が准汰の耳に飛び込んできた。 そして“トンボ”は食卓をひっくり返すと金属バットで壁を殴り、更に窓硝子を叩き割り怒鳴り散らした。 この時、准汰は恐怖した。まるで地獄絵図を見てるかのようで怖かった。 そしてショックだった。紀美子が泣いている姿を見るのが辛くて辛くて仕方なかった。 まだ幼い准汰は、涙は子供だけのもので大人は泣かないものだと思っていたので、“トンボ”の暴力よりも紀美子の涙の方がずっとショックが強かったのだ。 (ママたすけなきゃ) 准汰はそう思っているのだが、恐怖が身体を支配し動けない。 准汰はただ震えながらこの地獄絵図を見ているしか術がなかった。 先に脅える准汰の存在に気が付いたのは“トンボ”だった。 “トンボ”は准汰を抱き上げると子供部屋まで連れていき、既にひいてあった蒲団の中に准汰を入れた。 准汰には、おやすみ、とだけ言った父の顔がとても穏やかに見え、今し方暴力を振るっていた人物とはとても思えなかった。 子供部屋から“トンボ”が出ていくと、再び暴力の音と泣き叫ぶ声が准汰の耳に届く。
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