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「ママ、パパどこ?」
次に准汰がそう言った途端、紀美子は振り返り鬼のような形相で怒鳴った。
「あんなクソ男出ていったよ!!あの男は最低なんだ。もう二度と家に入れてやるもんかっ! お前もアタシがこんなに怪我してるって言うのに、あんな男の話をするんじゃないよ、バカタレが」
そこに美しい母の姿はなかった。准汰には紀美子の腫れたその顔がまるでお化けにしか見えず、ただただ悲しかった……。
その後、“トンボ”と別れてからの紀美子は情緒が不安定だった。
もともと紀美子はスナックを経営していたので、仕事も収入もそれなりにはあったのだが、家のローンと“トンボ”が作った借金の所為で生活はかなり苦しかったようだ。
やがて紀美子は、寂しさを紛らわす為に次々と店の客と関係を持つようになった。
毎回違う男達が准汰に気に入られようとおもちゃを買ってやって来る。
だが准汰はそんな大人達がどれもこれも助平な目をしている気がして気に入らなかった。
幼い准汰は紀美子の愛を独占したく、まだまだ紀美子に甘えていたかったのだが――それが叶うことはとうとうなかった。
紀美子は男達に夢中で、准汰を邪険に突き飛ばしたのだ……。
准汰は父に捨てられ、母にも捨てられるのではないかと思い怖かった……。
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