第二章 ひび割れた家族

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准汰が九歳の時、紀美子は客の一人、堺(さかい)と暮らし始めた。 堺は子供嫌いだったので、一つ屋根の下で暮らしていても准汰とは一切話をしなかった。 准汰も准汰で“母”を堺に奪われた気がしていたので、堺には反抗的な態度を取っていた。 しかし堺は准汰の反抗的な態度すらも無視をした。 まるで准汰の存在等ないかのように。 夜になると二人の寝室から紀美子の淫らな声が漏れてくる。 それが准汰には堪らなく苦痛であった。 何より子供にとって、“母親”が“女”になる程辛いことはない。 母にはいつまでも“清純な母”で居てほしいのだ。 堺と暮らし始めて間もなく、邪魔物になった准汰は親戚の家へと預けられた。 そしてこの頃から准汰は心を閉ざし、堺と紀美子を憎むようになった。 だが一方で、紀美子を憎む自分がとても“悪い子”のような気がして、准汰の中の善と悪が日々せめぎ合った。 准汰が毎晩寝小便をするようになったのはこの頃からだった。 毎朝蒲団の中がびしょびしょで目覚める。 部屋中アンモニアの臭いが漂い、准汰は毎朝起きる度に伯母に申し訳ないと思った。 三つ年上の従兄弟は毎晩、お前はすぐ漏らすからやんない、と言っては准汰の目の前でジュースを飲み、スナック菓子を平らげて見せた。 朝になると鼻をつまんで、小便マン、と言って准汰をからかった。 親戚の家で過ごした日々は、准汰にとってとても屈辱的な日々であった。 准汰は九歳にして、この世に自分の居場所等どこにもないのだと痛感した。
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