甘い夢、厳しい現実

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昭子は一通り話し終えると、ゆっくりしていくといいわ、と准汰に言い残し仕事に向かった。 朝から晩まで働き詰めの昭子は、忙しい合間を縫って二人の話を聞いていたのだ。 「足、崩したら」 沙夜の一声で我に返った准汰は、あぁ、と窶れた様子で返事をすると正座を解いた。途端に痺れが足全体に襲い掛かり、准汰は苦痛の顔と共に情けない声を漏らす。 沙夜はそんな准汰にくすりと笑い「何か飲む?」と聞いたが、准汰は首を横に振りそれを断った。 「沙夜、ごめんな……」 痺れた足を叩きながら、准汰は申し訳なさそうに言った。沙夜とお腹の子に対して、そんな言葉しか出てこなかったのだ。 「ううん、謝らないでよ。ジュン君、頑張ってたじゃない。私、凄く嬉しかったんだから。それにお母さん、『反対』とは一言も言ってなかったし。――ねぇ、ジュン君。もしも生活が大変だったら私もパートか何かしようと思うの。だから赤ちゃんの為に二人で働いて、頑張って貯金しようね」 沙夜は准汰に優しく微笑みかけていた。また、その微笑みが准汰に力を与える。 准汰はこの美しい花を枯らさないように、自分の全てを注ぎ込もうと思った。 沙夜と我が子を守る為に、自分の生命さえ賭けても構わないと思えた。
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