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「なぁ、今日はもう帰るよ。仕事も見つけなきゃいけないし。それと、今晩おふくろにも話してみるよ」
「じゃあ、私もジュン君の家に一緒に行く」
「いや、取り敢えず今日は俺一人で話してみるよ。大体の結果は見えてんだ……」
准汰は自分の家庭環境をまだ沙夜には話していなかったので、紀美子や堺と会わせるのにはもう少し準備が必要だと思った。
准汰はまだ痺れの残った足を気にしながら玄関へと向かった。
エンジニアブーツに足を入れようとして何度か刺激が走り、その度に顔をしかめることになった。
やっとの思いでブーツを履き終えると、やおら立ち上がり後ろを振り返った。
すぐ目の前には、沙夜が立っている。
二人はどちらからともなく自然と抱き合い、唇を重ね合わせた。馴れ親しんだその唇はいつもに増して心地好い弾力を含み、絡み付いた舌は熟れた果実の様に甘酸っぱかった。
准汰は唇を離すと屈み込み、沙夜のお腹に優しく手を当てた。
「俺、君の為に頑張るからよ。絶対に君を産ませてみせるから。だから、俺とママのこと、そこから応援しててくれよな」
准汰は我が子にそう語りかけると惜別の雲に飲まれてしまう前に沙夜の実家を出て行った。
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