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准汰の借りるアパートは勤め先のすぐ近くにある。
築四十年は経つボロアパート、かすみ荘。敷金、礼金共になし。部屋に風呂はなく、トイレは共同。
部屋の壁は薄く、隣人の声や物音がよく聞こえてくる。畳はやや湿り気を帯び、天井には謎の染みが幾つか見える。
当然、冷房なんて物は付いていないので、准汰の部屋は常に窓が開け放たれている。
そもそも准汰は家から何も持ってこなかったので、部屋にはテレビもステレオもなく、唯一買ってきた下着や衣類が僅かに部屋の隅に置かれているだけであった。
准汰は今はこれが精一杯だが、纏まった金ができたら、沙夜と子供の為にもっとマシないい部屋を借り、共に生活を始めるつもりでいる。
准汰は着替えを済ませると、再び雨具を纏い、そしてバイクを走らせる。
先日、昭子からの申し入れがありこの日は昭子と沙夜、紀美子と准汰の四人で今後についての話し合いをすることになっていたのだ。
准汰は家を飛び出して以来なので紀美子と会うのは二週間振りになる。
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