激動

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「いえいえ、とんでもございません。うちの准汰は昔から悪さばかりで、本当に成長のない不逞者でして。こんなのと一緒になっても御宅様の“沙希”さんに傷が付くだけだと思いまして……」 「おい! “さき”じゃねぇよ、沙夜だよ」 准汰は眉間に皺を寄せると強い口調で紀美子に言った。 「あら嫌だ、アタシったら。ごめんなさいね、沙夜さん」 紀美子の言葉に沙夜は愛想よく微笑み返したが、心中は複雑であった。 「准汰の父親は本当にどうしようもない男でしてね。アタシも散々苦労をさせられてきたんですよ。しかもこれがまた、この子ったら段々と父親に似てきまして。アタシは沙希さ――沙夜さんの為を思うと、今回は中絶をさせた方がいいと思ってるんですがね」 「何言ってんだよ。中絶はしねぇって言っただろう。大体、沙夜の前で何でそんな酷いこと言うんだよ」 「お黙り。大体まだ子供のアンタに赤ん坊が育てられる訳ないだろ。アタシはね、決して軽率に言ってるんじゃないんだよ。アンタを十九年見てきた母親として、当然のことを言ってるまでなんだよ」
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