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「いいえ、お言葉ですが准汰に誠意なんてものはありませんよ。本当に誠意があるのなら、端からこんなことにはなっていませんでしょ。そもそも、ちゃんと避妊をするのが誠意ってもんなんじゃありませんか?」
「……確かに、そうかもしれませんね」
昭子は紀美子の言葉に小さく頷いた。
「アタシはね、何も二人の交際に反対してる訳じゃないんですよ。ただ子供は早過ぎると。だから今回は中絶をして、それから同棲でもしてお互いをもっとよく知ってから結婚でもいいんじゃないかと思うんですよ。子供はまた作ればいいし、若いんだから大丈夫ですよ」
「待ってくれよ! 子供はまた作ればいいって、生命は一つなんだぞ。同じ生命は存在しないんだぞ。今、沙夜のお腹の子を殺しちまったら、その子とはもう二度と会えなくなる。次に産まれてくる赤ちゃんは別人になっちまうじゃないか」
准汰は紀美子に対し悲痛な叫びを訴えた。
だが、それが紀美子に伝わることはなかった――。
結局この日の話し合いは纏まらず決裂に終わってしまた。
紀美子は中絶以外の意見を頑として受け入れなかったのだ。
沙夜は紀美子の口から中絶という言葉を聞かされたのが余程ショックだったのか、俯いたままで一切口を開くことはなかった。
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